001.小さい何か

朝起きると、視界の隅で何かが動いた。幸村はフローリングの上で、身体の右側を下にした体勢だった。どうやら昨晩のうちに、ベッドから落ちたらしい。フローリングのひんやりとした感触が心地よい。

とろとろと心地よい気分で、瞼をゆっくりと閉じようとしたとき、また視界の隅に何かがちらついた。閉じかけた目を細めて、何かが動いた、自分の頭の上の方を見た。

何か、小さくてこぢんまりとしたものがそこにいた。それが何なのか、幸村はたしかに知っているはずだったが、寝起きの頭でそれの名前を思い出すことは難しかった。

その小さな何かは、幸村の方をじっと見つめていた。そのどこか温かい視線に、それが自分にとって害のあるものではないという確信が幸村の中に生まれ、幸村はそのまま目を閉じた。