子供

 休日の昼下がり。買い物帰りに電車に揺られていると、どこからか人の視線を感じた。

 車内を見回す。座席には余裕があり、立っている乗客は少ない。皆、自分の手元の携帯や文庫本に視線を落としている。頭を上げているのは私一人。

 気のせいかなとふと視線を隣の車両の方へ向ける。この電車は車両間のドアが開けられ、ずっと先の車両まで見渡せるようになっていた。

 そこにそれはいた。

 塀から頭を出してこちらの様子を窺う子供のように、それは斜め下からひょっこりと頭を出して、こちらを覗いていた。

 顔は大人だが、頭の位置が異様に低い。目は異様に吊り上がり、口角も不気味に上がっている。車両の中、顔を上げているのは私一人。そいつが見ているのも、私一人。

 最寄りの駅からずいぶん手前で、電車を降りた。それに居所を知られるのも嫌だったが、何より一刻も早くそれと距離を置きたかった。

 改札を出てすぐ、小走りで駅から離れる。無意識に後ろを振り返った時、それが改札の中にいた気がした。それもこの駅に用事があったのか、それとも。

 何とか自宅に帰り、ドアを施錠しチェーンをかけた。ドアにもたれかかった途端、どっと汗が吹き出したが、これでもう大丈夫な気がした。きっとあれはあの辺の子供で、たまたまあの時目があっただけだ。子供は無遠慮に人の顔を見る生き物だ。

 色々と自分に言い聞かせ、ドアから背中を離す。見計らったかのようにインターホンが鳴った。それから遠慮がちに、ドアノブを回す音、ドアを叩く音。

 ゆっくりとドアを振り返る。ドアの向こうは見えないけれど、そこにいるのが何なのか分かった。

 いつの間にかチェーンが千切れている。鍵がカタカタと震え、ゆっくりと回る。ドアが少しずつ開き始める。