暗闇

 夜中、明かりを消した部屋の中。使い古しのテーブルライトだけを点け、一人でパソコンでホラー小説を書いていると、どこからか視線を感じる。目だけで横を向く。そこには墨のような暗闇が広がっている。

 気が付いていないふりをして、キーボードをたたく。カタカタという不格好なタイピング音が部屋の暗闇に飲み込まれ、耳が遠くなる。

 幽霊が登場するシーンになって、全身に鳥肌が立った。まるで背中を刷毛でサーッと撫でられたような。

 思わず後ろを振り返る。テーブルライトに照らされた六畳一間の洋室がある。見慣れたベッド、見慣れた漫画棚。誰もいないし、何もいない。

 ホッとして、またパソコンに向かい、キーボードを叩き始める。事故に遭った女の幽霊の描写をしていると、ふと何かが頭の隅で引っ掛かる。

 たった六畳の部屋の中、テーブルライトの明かりが届かないはずがない。ならばあの暗闇は何だったか。

 こんなものを書いているからいけないのだ。今日はやめにしてベッドに潜ろうと決めて、パソコンを乱暴に閉じて後ろを振り返るが、そこに見慣れたベッドはなく、ただ墨のような暗闇が広がっている。