003.水槽

幸村は水槽が好きだ。子供の頃に遊びにいった友人の家にあった、少し小ぶりな水槽。綺麗な石が敷き詰められ、青々とした海藻が中でたゆたう。その隙間から時折顔を覗かせる、色とりどりの小さな魚。ずっと見ていても飽きず、友達の家に行くと、何時間でも水槽の前で時間をつぶしていた。

大人になって、自分で買いそろえることもできなくはない環境になったけれど、何故だか自分の部屋に水槽がある様を想い浮かべると、とたんに水槽が、水槽そのものの魅力が褪せてしまうような気がして、踏み切れないのだ。

店先で見る水槽も、洒落た喫茶店やバーで見かける水槽も好きだ。けれど一番好きなのは、友達の家やちょっとした知り合いの家に行った時に出会う、かざらない水槽だ。その家庭で、少しの、けれどもとても確かな愛情を受けた、その四角く切り取られた海のような物体。それが、幸村の目には何故だかとても、キラキラして映るのだ。

 

002.訪問者

インターホンの音で、幸村は目を覚ました。フローリングに横たわっていた身体がきしむ。幸村と一緒に床に落ちたらしい目覚まし時計の針は、十一時をさしていた。

ぼんやりと時計を眺めていたら、再びインターホンが鳴った。幸村はきしむ身体をなんとかして起こし、玄関へ向かった。

ドアの前には、不機嫌そうな顔をした少年が立っていた。齢は十二、三歳くらいか。成長期らしい、ひょろりと長い手足が、Tシャツと半ズボンから伸びていた。

少年はじっと幸村を見つめた。寝ぐせに、恐らく口元にはよだれ痕もついている。こんなくたびれた女子大生を見る機会はそうそうないのだろう。無遠慮に幸村を眺め、少年はため息をついた。

それから少年は、ゲンを見なかったか、と幸村に問うた。ゲン、という言葉を脳内で様々に変換したが、何も浮かんでこない。きょとんとした表情の幸村を見て、少年はまた溜め息をついた。

「知らないならいいよ。でも見つかったら教えろ」

少年はそう言うと、何かクシャクシャに丸まった紙を幸村に突き出した。

幸村はそれを反射的に受け取った。何か数字とローマ字の短い羅列があり、その上に、あまり整ってはいないが、素直そうな字で「有馬諒介」と書かれていた。

「なんだいこれは」

「俺のライン。入れとけ」

「おれ、ラインやってないんだけど」

幸村の言葉に、諒介は信じられないといった表情を浮かべた。今時、と小さな声で言いながら、玄関を出ていった。

幸村は寝起きの訪問者に目をぱちくりさせながら、くしゃくしゃの紙切れを手に、真夏のアパートの玄関で途方に暮れた。

001.小さい何か

朝起きると、視界の隅で何かが動いた。幸村はフローリングの上で、身体の右側を下にした体勢だった。どうやら昨晩のうちに、ベッドから落ちたらしい。フローリングのひんやりとした感触が心地よい。

とろとろと心地よい気分で、瞼をゆっくりと閉じようとしたとき、また視界の隅に何かがちらついた。閉じかけた目を細めて、何かが動いた、自分の頭の上の方を見た。

何か、小さくてこぢんまりとしたものがそこにいた。それが何なのか、幸村はたしかに知っているはずだったが、寝起きの頭でそれの名前を思い出すことは難しかった。

その小さな何かは、幸村の方をじっと見つめていた。そのどこか温かい視線に、それが自分にとって害のあるものではないという確信が幸村の中に生まれ、幸村はそのまま目を閉じた。

 

かわいいものをいじめたい

ちいかわが、周囲で流行っている。

男性ファンも多いとニュースで見かけた。そうなんだ。

 

ナガノさんのLINEスタンプは昔からの友人が好んで使っていて、使い勝手が良さそうだったので自分でも使っていた。

ナガノさんのアカウントをフォローするようになった。夜中にドンキへ繰り出して、材料を買ってきて蒸しパンを焼く漫画が一番好き。

最初に「ちいかわ」のつぶやきをナガノさんがしたときも、TLで見ていた記憶がある。

 

まだそこまでの熱ではないので、幸村が持っているグッズは、スタンプコレクション(鎧さんと、ラッコ)とネームプレートと、少しのシールと、恋人にもらったハチワレのマスコットだけ。

 

ハチワレが不憫な目に遭っているのを見ると、すっとするような、でも申し訳ないような、でももっと見たいような複雑な気持ちになる。推しはシーサー。

 

これからもっと増えるのか否か、自分でもわからないからちょっと怖いなと思う今日この頃。

子供

 休日の昼下がり。買い物帰りに電車に揺られていると、どこからか人の視線を感じた。

 車内を見回す。座席には余裕があり、立っている乗客は少ない。皆、自分の手元の携帯や文庫本に視線を落としている。頭を上げているのは私一人。

 気のせいかなとふと視線を隣の車両の方へ向ける。この電車は車両間のドアが開けられ、ずっと先の車両まで見渡せるようになっていた。

 そこにそれはいた。

 塀から頭を出してこちらの様子を窺う子供のように、それは斜め下からひょっこりと頭を出して、こちらを覗いていた。

 顔は大人だが、頭の位置が異様に低い。目は異様に吊り上がり、口角も不気味に上がっている。車両の中、顔を上げているのは私一人。そいつが見ているのも、私一人。

 最寄りの駅からずいぶん手前で、電車を降りた。それに居所を知られるのも嫌だったが、何より一刻も早くそれと距離を置きたかった。

 改札を出てすぐ、小走りで駅から離れる。無意識に後ろを振り返った時、それが改札の中にいた気がした。それもこの駅に用事があったのか、それとも。

 何とか自宅に帰り、ドアを施錠しチェーンをかけた。ドアにもたれかかった途端、どっと汗が吹き出したが、これでもう大丈夫な気がした。きっとあれはあの辺の子供で、たまたまあの時目があっただけだ。子供は無遠慮に人の顔を見る生き物だ。

 色々と自分に言い聞かせ、ドアから背中を離す。見計らったかのようにインターホンが鳴った。それから遠慮がちに、ドアノブを回す音、ドアを叩く音。

 ゆっくりとドアを振り返る。ドアの向こうは見えないけれど、そこにいるのが何なのか分かった。

 いつの間にかチェーンが千切れている。鍵がカタカタと震え、ゆっくりと回る。ドアが少しずつ開き始める。

 

暗闇

 夜中、明かりを消した部屋の中。使い古しのテーブルライトだけを点け、一人でパソコンでホラー小説を書いていると、どこからか視線を感じる。目だけで横を向く。そこには墨のような暗闇が広がっている。

 気が付いていないふりをして、キーボードをたたく。カタカタという不格好なタイピング音が部屋の暗闇に飲み込まれ、耳が遠くなる。

 幽霊が登場するシーンになって、全身に鳥肌が立った。まるで背中を刷毛でサーッと撫でられたような。

 思わず後ろを振り返る。テーブルライトに照らされた六畳一間の洋室がある。見慣れたベッド、見慣れた漫画棚。誰もいないし、何もいない。

 ホッとして、またパソコンに向かい、キーボードを叩き始める。事故に遭った女の幽霊の描写をしていると、ふと何かが頭の隅で引っ掛かる。

 たった六畳の部屋の中、テーブルライトの明かりが届かないはずがない。ならばあの暗闇は何だったか。

 こんなものを書いているからいけないのだ。今日はやめにしてベッドに潜ろうと決めて、パソコンを乱暴に閉じて後ろを振り返るが、そこに見慣れたベッドはなく、ただ墨のような暗闇が広がっている。

 

 

 

 

今日観たもの

ファイナル・デスティネーション』(2000)再

久々に鑑賞。やはりこの頃は不気味さの方が圧倒的に勝っていて、

サーキットのような「行き過ぎてもはや笑える」レベルには達していない。

最近、ある航空機事故について調べものをしていたので、違った視点で観られた。

 

クレヨンしんちゃん

「お風呂はイヤイヤ!だゾ」

奇抜な天気予報やイケメンお面、ひろしのマンモスを鼻で笑うひまわり等、

原作お馴染みの小ネタが近年のTVシリーズでも観られるのは嬉しい。

ぞうさんはダメになっても「尻は死守する」という川辺さんのインタビューを

読んだ後だったのでより楽しめた。

 

『呪術廻戦』シーズン1

第1話「両面宿儺」(1/24)

やっと見始めた。鬼滅もだったけれど、話題作をつい後回しにしてしまう悪い癖。

面白かった。説明過多にはならず、かといって置いてきぼりにもならない良い作り。

それにしても、『犬夜叉』『結界師』『地獄先生ぬ~べ~』を観たいけど被ってるな、と悩んでいたのにこれを見始めてしまって、色々渋滞しそう。

 

他には『モルカー』『メダロット』『MIU404』もちょっとずつ観ている。

一気に観た方が記憶が鮮明だと思ったけれど、一日一話で色んな作品を観た方が、

やっぱり気分が変えられて良い。

 

あとは『デジモンフロンティア』『シティーハンター』辺りも観たい。