003.水槽

幸村は水槽が好きだ。子供の頃に遊びにいった友人の家にあった、少し小ぶりな水槽。綺麗な石が敷き詰められ、青々とした海藻が中でたゆたう。その隙間から時折顔を覗かせる、色とりどりの小さな魚。ずっと見ていても飽きず、友達の家に行くと、何時間でも水槽の前で時間をつぶしていた。

大人になって、自分で買いそろえることもできなくはない環境になったけれど、何故だか自分の部屋に水槽がある様を想い浮かべると、とたんに水槽が、水槽そのものの魅力が褪せてしまうような気がして、踏み切れないのだ。

店先で見る水槽も、洒落た喫茶店やバーで見かける水槽も好きだ。けれど一番好きなのは、友達の家やちょっとした知り合いの家に行った時に出会う、かざらない水槽だ。その家庭で、少しの、けれどもとても確かな愛情を受けた、その四角く切り取られた海のような物体。それが、幸村の目には何故だかとても、キラキラして映るのだ。